Change the world.
But it is hard to do.
世界を変える方法
「世界を変える方法?」
「そう。」
僕は一生懸命真面目な顔で、だけどその反面鉄の匂いがこびりついた右手を凄く気にしていた。
「今さ、世界は大変じゃない?戦争でしょ、飢餓でしょ、それに温暖化。」
指折り数えて見せながら、地面を蹴る。やっぱり僕は回らない。
中三にもなって、テニス部なのに、逆上がりの出来ない僕を少しからかうように
英二は補助を申し出た。
放課後の校庭は、夕日に照らされるとなんだか違う場所みたいで
長くいたら自分も赤く染まってしまうような気がした。
「でーもさ、そんなん俺らが色々考えたところで、何も変わらないじゃん?」
「そりゃあ…ねえ。でもほら、個々の意識が大事でしょう。」
だから今噛んでるガムは家に帰ってから捨てなね、と言ったらそれは関係無いだろとむくれている。
「いーから、さかあがれよ!」
「なにそれ、へんなことば。」
ふざけながら、ふざけながら。鉄棒を握ると英二が横に来ていた。
「不二は世界を変えたいの?」
「別に…変えるっていうか、まあ、良くなればいいかなって。」
にかっと英二が笑う。
僕はこの笑顔を見ると、これ以外の全てをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に突っ込んでもいいような気持ちになる。
くしゃくしゃに丸めようと手のひらに力をいれるその瞬間、現実に引き戻されるのだけれど。
なにか企んでいるようで
でも実は何も考えていないようで
彼は確実に人を惑わす力を持っている。
前世は妖精とか、魔術師とか…なんだっけ、あのもののけ姫にでてた、首をかしげるやつ。
うっかりボーっとしていたら、肩を叩かれて振り向きざまに頬を突かれた。
「おーい、戻ってこーい。つか、こっち向けー。」
パっと手を捕られ、棒の握り方を直される。地面の蹴り方、呼吸の仕方に至るまで。
「大丈夫、…不二なら出来るよ。ここで見てるから。」
何故僕はその「大丈夫」という言葉をこんなにも信頼してしまうのだろう。
手に力をいれる。
身体を少しずつひいて、勢いよく地面を蹴り上げてみた。
「…へたくそー。」
身体が地面と平行になるかならないかのところで、僕は重力に邪魔されてそこへ引き寄せられた。
べたり、という感じの着地がなんとも愚かしい。
まわることなどもう出来なくてもいい
心底疲れ果てた手のひらの筋肉が、そう呟いた気がした。
「あっほだな、もう、一回まわらせてやるから」
身体で覚えろよ、と言いながら腰に手を当てる。
なんだかそこに力が集中している気がする。気孔みたく。
「いっせーの、で助走して、ぱっ、て飛び上がれ。」
大丈夫
近距離のそれは酷く僕を震わせる。
「…いくよ。いっ、せー、の!」
足が地面を叩いて、ぐいっと後ろに押す。その反動で身体は力強く空へ。
それ以上に英二の補助がきちんとされていて、僕は回った。
逆さになる校舎、空、英二。
ぺたりと着地すると、英二はまた笑った。思わず手に力が入る
「違う世界が見れただろ?」
世界を変えろと言われても、それは素晴らしく難しい。
戦争も温暖化も止まらないし、飢えゆく人々は増えるばかりだ。
けれど、君という存在がそこにいるだけで
僕の世界は、こんなにも簡単に変わってしまう。
Fin